【小説】ドムと傘

 こぐまのドムは、駄菓子屋さんに来ています。お母さんから貰ったお小遣いをもって、おやつを買いに来たのでした。

 しかし、森から街に降りてくる頃、雨がポツリポツリと降りはじめ、駄菓子屋さんに着く頃にはザアザア降りになっていました。

「ごめんください」

ドムはずぶ濡れのからだで駄菓子屋さんに入ります。

「いらっしゃい、よくきたね」

駄菓子屋のおばあさんがこたえます。

 

「ドムや、寒くないかい」

おばあさんは言います。

「だいじょうぶだよ」

ドムはこたえます。そのまま、グミキャンディーが並べてあるショーケースに向かいました。ドムは、カラフルなグミキャンディーを見るのが好きでした。ドムは、グミキャンディーをカップですくうと、紙袋に入れました。

「くださいな」

ドムが、グミキャンディーをもって、レジへ行きました。

「100円だよ」

おばあさんはこたえます。

ドムは、お金を払おうとカバンを開きました。しかし、すぐに困った顔をしてしまいました。なぜなら、ドムはお財布を忘れてしまったからです。

「なんだい、お金がないのかい」

ドムがもじもじしていると、おばあさんがいいました。

ごめんなさい、とドムがいう前に、

「しょうがないね、そこで待ってなよ」

と、おばあさんは奥の部屋へ消えていきました。

 

 しばらくして、おばあさんはあたたかいココアを片手に戻ってきました。

「からだが冷えてしまっているだろ、これでも飲んで帰りな」

おばあさんはいいます。

「でも、」

ドムは申し訳ない気持ちになってしまいましたが、

「遠慮せずに飲みなさい」

と、おばあさんは譲りません。

 

 ドムは、あたたかくてあまいココアをちびちび飲みました。

 ココアを一緒に飲みながら、おばあさんとドムはお話しをしました。ドムは、昨日家の庭にヘビがでたこと、おとうさんのおならが大きくて、おかあさんとドムが夜中に目覚めてしまったこと、好きな女の子がいることを話しました。おばあさんは、おじいさんが病気で入院していること、大切な孫のこと、そしてドムや、おみせにやってくる子供たちのことも大切に思っていることを話しました。

「さあ、暗くなる前に帰りな」

ドムがココアを飲み終わると、おばあさんがいいました。

 

「ありがとう」

そういってドムがお店を出ようとすると、

「これを持っていきな」

とおばあさんが傘を差しだしました。

 申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちで、ドムは泣きそうになってしまいました。

「気にしなくていいんだよ」

おばあさんはそういうと、ドムの頭を優しく撫でました。

 帰り道、ドムはとても幸せな気持ちでした。

 

 それから、ドムは傘を大事にしました。おばあさんの優しさが、とてもとても嬉しかったからです。一日に何回も傘を開き、寝るときは枕元に置くほどでした。

 それからしばらくして、お母さんから再びお小遣いを貰うと、ドムは傘をもって駄菓子屋さんに向かいました。

 

 みちすがら、ドムは傘を大切に大切に扱いました。地面に落としたり、何かにぶつけたりしないよう、細心の注意を払いました。

 カラスが、

「みてみろ、ドムのやつ、こんなに晴れてるのに傘なんかもってるぜ」

とけたたましく笑いましたが、無視して黙々と駄菓子屋を目指します。

 

「おばあさん、こんにちは」

 駄菓子屋の扉を開いてドムは言いました。

「ドムや、よくきたね」

おばあさんはこたえます。

「傘、ありがとう」

ドムはそういいながら傘を差し出しました。

「あのね、僕、この傘のことうんと大事にしたんだよ」

ドムは言います。

「とても嬉しかったから、一日に何回も開いて、寝るときも一緒だったんだよ」

「最後にもう一回、傘を開いていい?」

そう言いながら、ドムは傘を開きました。

 

 すると、なんということでしょう、所々傘は破れており、光の筋が透けて見えます。きっと、森を抜けるとき、草むらや木の枝にこすれて、破れてしまったのでした。

 ドムは、泣きべそをかいてしましました。悲しさや、申し訳なさでいっぱいになってしまったからです。ドムは、わんわん泣きました。泣けば泣くほど悲しくなってしまい、せっかくのおばあさんの優しさを台無しにしてしまった気分でした。

「しょうがないね、そこで待ってなよ」

そういうと、おばあさんは奥の部屋へ消えていきました。

 

 しばらくして、おばあさんはお裁縫道具とアイロンをもって戻ってきました。

 まず、おばあさんは傘の破れたところにアイロンでワッペンをつけ始めました。ドムのだいすきなグミキャンディーのワッペンです。紺の傘に、色とりどりのワッペンが貼られて、とても綺麗です。

 次に、おばあさんは傘の袋を縫い始めました。傘がすっぽり収まる長細い袋を縫うと、その袋に背負うための紐をつけました。

 

「さあ、できたよ」

そういうと、おばあさんは、ドムに傘を背負わせました。

「これで、傘が破れることもないだろう。そんなに気に入ってるならこの傘はあげるよ。」

 そういって、おばあさんはドムを抱きしめました。

 

 それから、雨の日も、晴れの日も、ドムはいつも傘を持ち歩くようになりました。